「愛よりも昔、孤悲のものがたり」
今回レビューするのは、映画監督である新海誠さんによる小説「言の葉の庭」。
新海作品の中でも特に大好きな作品です。
見どころ!
- 4つの新たな視点で描かれる言の葉の庭
- 綺麗なだけじゃない物語
- 映画のその後のお話
視点の追加により、46分の短編だった映画と比べ、大ボリュームの一冊となりました。
今回も先に映画を観ている人向けの記事になります。
映画版と小説版の違い、見どころや注目ポイントなどについてガッツリ語っていきたいと思います。
作品について
概要
- 著者 新海誠
- 発売 2014年
- ページ数 306ページ(Kindle版)
新海誠監督の5作目のアニメーション映画「言の葉の庭」を、監督自ら小説化した本作。
「秒速5センチメートル」の小説化と同様に、映画公開後に作られた小説のため、映画版の補足的な要素が強い一冊となっています。
小説単体でも楽しめる内容になっていますが、映画視聴後に読むことで、より特別な読書体験になってくるのではと思います。
小説の見どころ!
4つの新たな視点
この小説版では主人公である孝雄と雪野以外の登場人物にも焦点が当てられていて、
- 孝雄の兄・翔太
- 孝雄の母・怜美
- 雪野の元恋人の伊藤先生
- 雪野との間に問題を抱えた相澤祥子
彼ら自身のことや、彼ら視点からのお話に触れることで、孝雄と雪野の物語をより深く掘り下げていけるという構成になっています。

翔太と怜美の章では外からみた孝雄が、伊藤先生と相澤祥子の章では外からみた雪野が描かれていきます。
綺麗なだけじゃない物語
映画版はひたすらに綺麗で美しい物語という印象だったのに対し、小説版では人間くささや綺麗じゃない部分にスポットをあてたような、そんなお話になっています。
中にはちょっぴり生々しく感じる場面もあったり…。笑
ただ、より深く掘り下げていくなら避けて通れない要素なのかなとも感じていて。
映画版の46分では描ききれなかった登場人物のより深い内面の描写も、この小説版の大きな見どころの一つとなっています。
映画のその後のお話も
孝雄の靴職人の夢や、2人の恋の行方。
気になっていた「その後」についても、エピローグにて語られていきます。
描かれるのは5年後の2人。
「秒速5センチメートル」の貴樹と明里はちょっとせつない終わり方になりましたが、この作品の2人はどういった結末を迎えるのでしょうか。
小説版でぜひぜひ見届けてみてください。
みんなの評価!
アマゾンの評価 4.6(総レビュー数170)
- 文章ならではの繊細な表現
- とっつきやすいが読み応えもある
- 内面に深く踏み込んだ心理描写
映画では46分だった物語を、2時間に収まらない(新海監督談)レベルまでボリュームアップした内容ということもあり、映画で物足りなさを感じた人も高評価をつける一冊となりました。
「小説・秒速5センチメートル」のときと同様に、すらすら読める読みやすい文章を評価する意見が多かったです。
それと、新海監督の「あとがき」に触れる声もありました。
映像で表現することと文章で表現することの違い、あるいは楽しさや難しさなどなど。
新海監督らしいユーモアを交えながら制作秘話が語られていて、僕的にもすごく楽しく&興味深く読ませていただきました。
4つの視点から見る新たな言の葉の庭
孝雄の兄・翔太
翔太は映画から入ると、かなり意外な人物像に感じるかもです。
でもリアリティはあるというか、身近にいそうな感じが好ましくもありました。
内面では葛藤を抱えていても、なんだかんだで周りに気を遣えるところなんかは、やっぱりいいお兄ちゃんなんだなぁと思います。
雪野の元恋人・伊藤先生
伊藤先生は映画ではあまり印象に残っていなかったのですが、小説版では結構強烈なキャラでした…。笑
ただ、読み進めていくと繊細なところも見えてきて、雪野の元恋人というのもしっくりきた感じです。
厳しい態度の裏側にはちゃんと生徒を想う気持ちがあって、そういうところは僕的にすごく好印象でした。
雪野との間に問題を抱える相澤祥子
映画を観た人が一番気になるのが相澤祥子の章ではないでしょうか。
はじめから雪野と折り合いが悪かったわけではなく、とあることがきっかけで関係が一気に悪化してしまいました。
その理由は高校生らしいものではあるのですが、共感できるかは人によって大きく分かれそうです。
ただ、根っからの悪い子ではないので、小説版を読むことで少なからず印象は変わってくるのではと思います。
孝雄の母・怜美
孝雄にとって要所要所で重要なきっかけをくれる存在で、自由奔放に見えるけどやっぱり母親なんだなぁと思わせてくれる場面が多いです。
ちょっぴりクセが強い登場人物が多い中で、癒しのような存在にもなっています。
メインを除けば一番好きな章だったかも…。
かわいくて優しくて、ちょっと甘えん坊ないいお母さんでした。
孝雄と雪野
孝雄の内面は高校生らしく目まぐるしいです。
怒りや葛藤、迷いだったり前向きさだったり。
ポーカーフェイスのように見えて、雪野に対しては「かわいい」とか「綺麗だ」とか心の中で思ったりもしています。笑
雪野は映画以上に等身大の女性として描かれていると思います。
「弱さ」といってもいい部分が多く書かれていて、中盤あたりではだいぶハラハラする場面もありました。(・ω・;)
小説では映画よりさらに多くの万葉集の歌が引用され、解説もついているので、それぞれの心の動きを追いやすくなっています。
「なるかみの」から始まる歌とその返しの歌も、正確な意味や意図を知ることで、シーンがより心に残る印象的なものになってくると思います。

あれはとてもロマンチックな歌だったんですね。
小説「言の葉の庭」まとめ!
小説版まとめ
- 4人の視点からみる新たな「言の葉の庭」
- より深いところまで描かれる内面
- 綺麗なだけじゃない人間くさい描写も
- 映画のその後の物語
4つの視点を加えたことで、物語は大きく広がりをもったように感じています。
意外に感じる人物像のキャラもいるのですが、最後まで読むときっと好きになれるのではと思います。
小説の最後には、「映画のその後」にあたるお話も…。
秒速5センチメートルとはまた違った2人の結末。
小説版「言の葉の庭」でぜひぜひ確かめてみてください。